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研究する前に知っておくべき“オーサーシップ”の国際基準

1.オーサーシップについて知らないと、自分が損をします!

研究の世界における「オーサーシップ(Authorship)」の問題、つまり「誰を著者にするか?」という問題について、少なくとも概要だけでも知っておくということは、近年ますます重要性を増しています。オーサーシップの基準については、まだ議論がされていますが、最低限の知識を有していないことで、自分が不利益を被ることがあります。

オーサーシップの知識が著者に欠けていることで起きる不利益

1.研究を他者にとられても戦う理論的なベースがなく泣き寝入りすることになってしまう

2.知らず知らずのうちに不正を行ってしまう

3.理不尽なアカデミックハラスメントに合ってしまう

この「3.理不尽なアカデミックハラスメントに合ってしまう」については、なかなか想像しにくいかもしれません。確かに、自分の研究を他者にとられてしまうということも、アカハラのひとつではありますが、この「3」はそれとは異なります。これは、日本的な慣習と国際的な基準の差異を利用して、レベルの高い雑誌に掲載された論文に対して「あれは(国際的な基準では)著者になるべきではない人間の名前が掲載されている」などと通告して、掲載を取りやめさせることが行われ得る、ということを意味しています。実際、弊社の耳に入っている範囲ですが、そのような理由で掲載を取り消されたという事例があるようです。

単著で論文を出す人文学や理論系学問の一部などではあまりこういうことが起こらないのですが、実のところ、日本では研究にあまり関わっていなくても、同じ研究室の人の名前を載せる、指導教官の名前は必ず載せる、先輩の名前を載せる、一時的なアドバイスをもらった人の名前を載せるなどの慣行があります。たとえば、違う研究室の人と共同研究をしていて、主指導教官はあまりその論文に関係がないのに、主指導教官だから名前だけは載せるというようなことです。しかし、このような慣行は現在の国際基準とはかなりずれており、これを利用して「3」のようなアカハラに結びついてしまうのです。現行の日本の「著者」文化と国際的な基準の間には、隔たりがあるということを頭にいれておくとよいかもしれません。

2.不適切なオーサーシップの例

ここで不適切なオーサーシップについて、まとめておきましょう。ひとつ断りを入れると、ここで指摘されている偽オーサーシップが、それ以外の不適切なオーサーシップに分類されるなど、分類自体は文献や資料によって異なることがあります。ただ、その場合でも、これらが不正であることには変わりありません。論文の投稿の際は、各ジャーナルの基準を参照するのがよいでしょう。

偽(ニセ)
オーサーシ ップ
・まったく研究に関わっていない人の名前が掲載されている
・関わった人の名前が掲載されていない
順序が貢献度と食い違っている
・許可なく名前を掲載している
ギフト/ゲスト/名誉
オーサーシップ
・一時的にアドバイスをしたなど、関係の希薄な著者の名前を掲載する
・採択率を高くするために、あまり関わっていない有名な研究者の名前を載せる
ゴースト
オーサーシップ
・プロのライターに書いてもらったにも関わらず、名前を記載しない
※メディカルライターなど分野によってはプロを雇うことが当然であるため、
一概にプロに頼ることが不正だということはできません。

3.国際的な「著者」の基準

国際的な著者の基準については、確かにまだ議論があります。ただ、すでに議論が一定数積み重ねられており、ある程度の枠が決められています。特に近年では、International Committee of Medical Journal Editors(ICMJE, 医学雑誌編集者国際員会)の基準が主要なものとして参照されているようです(参照: 北仲, 横山 2016)。その基準では、次の項目のすべてに当てはまらない著者は、不適切だとすべきとなっています。

国際的な「著者」の基準

(北仲, 横山 2016に掲載されているものを参照しましたが、わかりやすく変更しました。詳しくは本論文または山崎茂明, 2015, 『科学論文のミスコンダクト』丸善出版をご参照ください)

つまり、簡単に言うと「研究に主体的に関わっており、内容の細部についても説明できる」ことが著者の基準となります。たんに「お世話になった」という程度では著者にすることができないのです。この基準に照らし合わせると、掲載するべき著者を掲載しなかった、ファーストオーサーが違う人物になっていたなども、当然不正となります。

4.適切なオーサーシップで、研究しやすい環境づくりをしましょう

日本における調査で、961人に対して質問をしたところ「自分が研究に参加していたのに論文に名前が載らなかった」という例は28.5%にまで上るとされています。「研究に関わっていないのに、名前が掲載されている」という事例は、なんと約40%とされています(参照: 北仲, 横山 2016)。これは、少なくとも日本の研究の世界には、理不尽な待遇に泣いている人や、不満を抱いている人が多いということを意味しています。

だれもが不公平を感じず、日本の研究力を健全にのばしていくためには、適切なオーサーシップに対する知識が必要となります。

参考:
北仲千里、横山美栄子「科学論文における「不適切なオーサーシップ」調査に関する比較研究」『東北大学高度教養教育・学生支援機構紀要』   (2) 75-86 2016年
エルゼビア「オーサーシップ
ワイリー・サイエンスカフェ「<記事紹介> 論文の共著者に誰を入れるか、入れないか / 判断基準はどうあるべき?