1.論文の構成の大切さ
さて、論文の書き方講座がはじまりました!なぜこの第一回目が「読みやすい文の書き方」でもなく、「論文らしい言葉遣い」でもなく、「論文の構成」に関してなのでしょうか。
それは、この構成こそが、論文の質を決める最も重要なものだからです。この構成が不明瞭だと、いくら名文・美文で書いても論文としては成立しません。特に論述系の人は、文章にこだわるあまり、この構成という視点を忘れがちなケースが多々あります(構成がないというのではなく、構成よりも一文一文の運びに注意を奪われがちという意味です)。しかし、繰り返します。最も重要なのは、この構成です。
たとえば、自分が思う完璧な文体で論文を書いたとしましょう。しかし、その文章の論理が破綻していたとすれば、一から書き直しになってしまいます。文体を整えるのに費やした時間は、水の泡となってしまうのです。そして論文では、この「論理」の道筋を決める最も重要なものが、文章の構成なのです。
2.論文の構成はどういうものがいいの?!”IMRAD” を知っていますか?
周知のとおり、論文はある程度「論証・証明」(以下「 論証 」で統一)の過程を含んでいなければなりません。「完璧に」論証する必要は、なかったりしますが(そもそも不可能だという議論があります)、その 論証の過程は書かなければなりません。そしてその 論証の過程は、上述のように、文章ではなく構成に現れるのです。ここでパラグラフ・ライティングの話もできればよいのですが、今回はまず、構成のみに焦点を絞って話していきます。
論文の構成の代表例~IMRADについて~
さて、皆さんは「イムラッド(IMRAD,IMRaD)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。ある程度アカデミック・ライティングを学んだ人であれば、聞いたことがあるかもしれません。もしかしたら有名雑誌にはこの構成で要約を書くように指定があるので、自然科学系の研究者のみなさんのほうが、耳にしているかもしれません。
このIMRADとは、序文、方法、結果、考察(結論)の英語の頭文字をとったもので、論文の構成の代表例です。人文系の場合は、あまりこのIMRADの構成が必要ないと見られがちですが、しかしやはり、この構成が重要になることは間違いないと思います。というのも、何かを論述するためには、「何を論じるか」「それをどう論証するか(方法)」…とだいたいこの順番になるためです。もっとも人文系の場合はこの「方法」が「視点」や「○○説/論の理論」になることが多いですが…
論文の構成、IMRADの具体例~「結果」と「結論」は違います!~
それでこの構成にのっとった具体的な書き方ですが、まず「序文」に問題とその背景を書き、「方法」にその問題を解決する方策を載せて、その「結果」どうなかったか述べて次に「議論」すると覚えておけばよいでしょう。「結論」はそのまとめを書くと覚えてください。とはいえ、ぱっと聞いただけではわからないかもしれません。注意すべきは、「結果」と「結論」は違うということです。なかには、「結果」と「結論」が違うと言われて、戸惑う方もいるかもしれません。これに関しては、長くなるので、また別の機会に話しますが、「結果」は論証の結果を、「結論」はその結果がもたらす効果や、その結果が解決するより広い問題への示唆などを書く、と覚えておけばよいでしょう。明快な論文を書くためには、このような構成のひとつひとつの役割を理解し、論文に反映させていくことが重要です。文系でも、このような論文の書き方にすることで、採択率が格段に上がった方もいます。
次に、具体的にどう書くのか事例を見たいと思う方のために、簡単な具体例を載見てみましょう。自然科学系の場合、ライティングの入門書が比較的豊富で、様々な本で解説していると思うのですが、人文社会科学系では手ごろな事例がなかなか見つけられないため、今回は人文系の例にしましょう。とはいえ、「方法(Methods)」に「○○の実験を行い」と書くところが「○○の視点から見る」という文章にかわっているだけで、論文の構成にはあまり変わりがないですが…
どうです?例を見ることでなんとなくわかりましたか?最後にもう一度強調しますが、論文にとって最も重要なのは、文章の運びを決定する「構成」です。
また、論文の構成を研究している方のなかには、IMRADだけではなく、異なる構成を上げている方もいます。しかし、いずれにせよIMRADが代表的な型であることはまちがいありません。人文系の中には、序文、本文、結論で同じことを3回書く(本論では○○の問題を、~~で論証して、**という結論を得た。というのを文章の抽象度を変えて3回という意味)のが大切という方もいますね。いずれにせよ肝は「論証・証明」ということを忘れずに、その目的にあった構成で書くことが重要です。IMRADは、その目的にあったすぐれた構成のひとつの型です。
次回は先行研究の書き方について解説します!