最新!アクティブ・ラーニングの理論と実践の今

最新!アクティブ・ラーニングの理論と実践の今
アクティブラーニングの最新理論

1 アクティブ・ラーニングとは

「アクティブ・ラーニング」という用語が教育界を賑わせています。書店の教育関連書籍コーナーをご覧になってみてください。数えきれないほどのアクティブ・ラーニング本が出版されていることがわかります。こうしたアクティブ・ラーニングの普及が物語るように、その言葉は、誰もが耳にしたことがある言葉になりつつあります。巷を賑わすこの「アクティブ・ラーニング」という言葉は、昨今の教育を語る上で欠かせない視点となっています。

2 最新の研究でわかってきたアクティブ・ラーニングの問題点 

アクティブ・ラーニングは、急速に変化する社会に対応する学習のあり方のひとつとして注目を集めています。2012年からは日本においても、教育政策用語として文部科学省で正式に使われるようになりました※1。文部科学省は、アクティブ・ラーニングの中でも、「ディスカッション・ディベート・グループワーク」など、他者と共に取り組む学習の有効性を強調します。しかし一方で、アクティブ・ラーニングの普及には危険を孕んでいるという現状もあるのです。

教員が専門的な知識を有していても、授業での教え方が上手であるかどうかは関係ありません。アクティブ・ラーニングを導入したことで学びの質が向上するとしても、現行の教育方法を変えることに消極的な教員もいます※2。現行の教育方法で自らも教育され、研究者となった大学の教員は、アクティブ・ラーニングをアクティブに学んだ経験がありません。そのような教員にとっては、アクティブ・ラーニング型の学習法よりも、現行の講義形式の教育方法の方が、より良い教育成果を挙げることもあります。

教え手の資質に以外にも、学び手の学習の焦点に着目した指摘もあります※3。アクティブ・ラーニングは、自分から質問したり、興味のあることを自分で探究して発表したりして、他者と共同で課題に取り組む学習法です。その学習の焦点は、学習者個人の理解に合わせるべきなのでしょうか。それとも、集団における学習活動に合わせるべきなのでしょうか。アクティブ・ラーニングは、学習の焦点が揺れ動きが激しい二項対立的な捉え方がされることがあります。授業デザインによっては、焦点の定まらない不安定な学習となる恐れもあるのです。

※1 文部科学省(2012)新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて ( 答 申 )
※2 Waldrop, M. M. (2015) The Science of teaching science. Nature, 523, 272-274.
※3 Wiggins, G. & McTighe, J. (2005) Understanding by design, Expanded 2nd ed. ASCD

3 アクティブ・ラーニングの最新の理論と実践 ~児童生徒・学生の学力を上げるには~

【小学校の事例】グループワークで学力は向上する!?

小学校でのアクティブ・ラーニングと子どもの学力を分析した研究があります※1。その研究によると、漢字学習の授業において、教師による従来通りの講義形式で学習を進めるのと、子どもたちだけのグループワークで学習を進めるのとでは、グループワークで学習した子供たちの方が、漢字テストで高得点を取るとされています。

下の表は、講義形式の学習を行った学級の漢字テストの点数を基準にして、2つの学級の漢字テストの点数の差を表しています。グループワーク導入前の5回分(表の左側)の漢字テストでは、2つの学級には学力差が無いことがわかりますが、グループワークによる漢字学習を導入した後の5回分(表の右側)の漢字テストでは、その導入直後からグン!とふたつの学級の漢字テストの点数に大きな差が生まれています。アクティブ・ラーニングの導入で、成績が上がったことが十分に読み取れるでしょう。

表:下記の引用文献データから筆者が作成

菅井 篤(2017)『初等教育におけるアクティブ・ラーニングの効果の実践的検討-「教え合い活動」による漢字学習を事例として-』 横浜国立大学修士論文
菅井 篤(2018)『アクティブ・ラーニングを拓く学習環境のデザイン: 小学校での「主体的・対話的で深い学び」を支える教育実践ハンドブック』デザインエッグ社

【大学の事例】「反転授業」実は効果がない?効果があるのはアクティブに学べる学生だけ

反転授業という学習法があります。ビデオや文献で事前学習をして、学生が授業の中で、その内容について解説をする学習法です。一般的に、講義形式の授業では教員が事前に授業準備をして、教員が講義の中で解説をしますが、反転授業はその逆の学習法です。反転授業は、アクティブ・ラーニング型授業の中でも人気モデルのひとつと言えます。しかし、高い学習効果が期待され、広く普及している反転授業でも、逆効果となることもあるのです※2。

アメリカの大学では、反転授業を行うことで、数学の科目を受講する学生は短期的に学習効果が認められましたが、経済学の科目を受講する学生には、効果が認められませんでした。授業によっては、講義形式の授業をやっても変わらないということです。反転授業を実施した講義で、試験で高得点を修めるのも、白人学生や男子学生、そして高学歴の学生といった限られた性質の学生だけです。黒人学生やヒスパニック系の学生や女子学生には十分な学習効果が現れませんでした。短期的に学習効果が現れることがあっても、結果的には学力差は広がり続けてしまうようです。

※2  Setren, E. & Greenberg, K. & Moore, O. & Yankovich, M.(2019)Effects of the Flipped Classroom: Evidence from a Randomized Trial SCHOOL EFFECTIVENESS & INEQUALITY INITIATIVE(pdf)

4.アクティブ・ラーニングにおける対話の意味

アクティブ・ラーニングにおけるひとつの焦点は「対話」です。それは、とても重要な役割を担います。

学びは越境します※3。アクティブ・ラーニングは様々に越境する学びのひとつです。対話をすることで、自分の学びが、相手の学びにつながります。自分や相手の境界を越えて学びが広がったり、コミュニティを越えて学びが生まれたりします。自分では大切だと思わなかったことでも、誰かからの指摘で、ハッと思い、その重要性に気づかされることがあると思います。

アクティブ・ラーニングにおける対話の役割のひとつは、意味の生成です。対話によって、これまで焦点を当てられてこなかった部分に、焦点を合わせ、再注目し、新しい意味を共に作り、そのことで、違った世界の見方ができるようになります。ダイナミックに動き続けるこの世界に対応するための視座を、アクティブ・ラーニングによってデザインするのです。

※3 香川秀太・青山征彦(2015)『越境する対話と学び: 異質な人・組織・コミュニティをつなぐ』新曜社

5.アクティブ・ラーニングで大切なこと

アクティブ・ラーニングは、学習環境の新しいデザインに寄与します。うまくいくときもあるでしょうし、そうでないときもあるでしょう。しかし、そうした学びは、決して誰か一人でデザインしていくものではありません。自分でデザインするとともに、むしろ周囲からもデザインされているのです。新しいアイデアや意見が生まれず、立ち止まってしまうときには、ぜひ周囲の人々と議論し、対話を試みてください。そうすることで、本記事でお読みいただいたアクティブ・ラーニングを、アクティブに活用することができるでしょう。

アクティブ・ラーニングの基礎理論について、もっとしっかり勉強したい人は アクティブラーニングって何?アクティブラーニングの基礎理論 も読んでみてください。

アクティブ・ラーニングの基礎理論

今回の学び
・アクティブラーニングは効果的
・しかし、教える内容や教員によっては効果が低くなることもある
・アクティブラーニングを、教員がアクティブにやることが大切

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