恋愛心理学の基礎理論~恋愛の種類と相性~

―「恋愛とは何か」という問題―

 「恋愛とは何か」と考えてみると、色々な答えがありそうだということに気づくかと思います。ある人は時間やお金をつかって相手に献身的に尽くすのが恋愛だと考えるかもしれません。恋愛なんて人生のさまざまな事柄に付属するアクセサリーみたいなものだと考える人もいるかもしれません。お互いに成長するような関係を恋愛と呼ぶ人もいるかもしれませんし、「一緒にいたい」という感情そのものを恋愛だと考える人もいるかと思います。

 たとえばこれまでにも、「恋は盲目」「恋は人生のスパイス」「恋は下心、愛は真心」といったことが言われてきました。しかし、これでは「恋愛とは何か」に対する答えがたくさんあることになってしまいます。

 そこで、「恋愛とは何か」を考えるために、一旦、辞書を確認してみます。たとえば、『新明解国語辞典』(第3版)では、

特定の異性に特別の愛情をいだいて、二人だけで一緒に居たい、出来るなら合体したいという気持を持ちながら、それが、常にかなえられないで、ひどく心を苦しめる(まれにかなえられて歓喜する)状態。

と記されています。なるほど、確かにそういう部分もあるかもしれませんが、「常にかなえられない」ものしか恋愛と呼べないのであれば、恋人同士という関係は恋愛ではないことになってしまいます。別の辞書『大辞林』(第3版)を見てみると、以下のように記されています。

男女が恋い慕うこと。また、その感情。ラブ。

これは『新明解国語辞典』と異なりますし、現代においては恋愛はかならずしも男女に限られたものではないという認識もあると思います。このように恋愛観は時代によっても変わるため、「恋愛とは何か」に対する答えを考えるのはなかなかに難しい問題です。

2. 恋愛を分類してみる

 そこで、「恋愛とは何か」を考えることはとりあえず脇に置いて、別のアプローチから恋愛を捉えていこうとした人がいます。カナダの社会学者であり、心理学者でもあるJohn Alan Lee(ジョン・アラン・リー)です。リーは「恋愛とは何か」を考えるのではなく、まずは恋愛についての考え方や実際の恋愛の在り方をいくつかに分類することで恋愛を捉えてみようとしました。その際に、リーは色相の考え方にヒントを得て、恋愛についての考え方や在り方の多様な種類も色相と同様に捉えて体系化しました。これが恋愛の分類学のはしりになります。

色のように捉える恋愛の種類

 ラブスタイル(Lovestyle)という言葉をご存じでしょうか。色にはこれ以上混ぜて作ることのできない色(原色)と、原色と原色を混ぜてできた色(2次色:赤と青を混ぜて作った紫など)、原色と2次色とを混合してできる色(3次色)というような色相があります。これになぞらえて、恋愛にも原色と2次色と3次色に相当する種類があるとリーは考えました。この種類をリーはラブスタイルと呼び、この考え方は「恋愛の色相環理論」とも呼ばれています。

色相環(Color Wheel)


リーは、恋愛を色になぞらえて捉えたため、恋愛における「原型」(色で言う原色)は3つあると考えました。その3つとはエロス(美への愛)、ルダス(遊びの愛)、ストーゲイ(友愛的な愛)です。また、「原型」同士を混合した「混合型」も色と同じように沢山あるとリーは考えていましたが、よく見られる恋愛の「混合型」としてマニア(狂気的な愛)、アガペ(献身的な愛)、プラグマ(即物的な愛)の3つを考えました。以下では「原型」3つと「混合型」3つの6種類(6つのラブスタイル)にどのような特徴があるかを説明します。

― 恋愛タイプの「原型」 ―

1⃣ 美への愛 ➡ エロス

エロスは美への愛(love of beauty)や、情熱的・エロティックな愛とも呼ばれ、外見が重視されるという特徴があります。恋愛が始まってすぐの時期から、毎日と言っても過言ではないくらい頻繁に会いたがり、肉体関係も含めて早くから深い絆を結ぼうとします。だからといって、過剰に独占的な関係を結びたいというのではなく、その情熱的な関係を楽しんでいることが特徴です。

2⃣ 遊びの愛 ➡ ルダス

ルダスは遊びの愛(playful love)とも呼ばれます。恋愛は楽しむもの、ゲームのようなものであり、深い関わりにならないように注意しています。嫉妬もご法度です。複数人との関係をもつことも厭わないのですが、全員との関係を大切にします。関係が色々あったほうが楽しみも色々あるという発想で、一つの関係が長続きしないことも多いです。

3⃣ 友愛的な愛 ➡ ストーゲイ

ストーゲイ的恋愛では愛情や付き合いをゆっくりと育んでいきます。互いのことを徐々に知っていき、情熱的な気持ちを避け、長期的な関係を望みます。相手の外見よりも、一緒にいて心地良い関係であることや愛情深い関係であることを大切にします。恋愛は友愛の延長線にあるものとして捉えられることから、友愛的な愛(companionate love)とも呼ばれます。

― 恋愛タイプの「混合型」 ―

4⃣ 狂気的な愛 ➡ エロス+ルダス=マニア

マニアはエロスとルダスを混合した種類で、狂気的な愛obsessive love)とも呼ばれます。相手に異常にのめり込んでしまい、嫉妬も感じます。愛されているかをどうかを繰り返し確認したがります。一方で、ルダスのように激しい感情を抑え込もうとしたり、関係を操ろうともします。このような激しさと冷静さの矛盾により、不安定で緊張した関係になります。

5⃣ 献身的な愛 ➡ エロス+ ストーゲイ = アガペ

アガペはストーゲイとエロスを混合した種類で、いわゆる見返りを求めない無償の愛です。 献身的な愛(altruistic love)とも呼ばれます 。キリスト教の理想とされる愛の類型で、どちらかというと現実にはあまりなく、理想としての類型であるとされます。

6⃣ 即物的な愛 ➡ ルダス+ストーゲイ=プラグマ

プラグマはルダスとストーゲイの混合です。関係を自分の手中に収めるというルダス的特徴と、ストーゲイ的な付き合いという特徴が混合しています。 目的達成の手段として恋愛を捉えており,即物的な愛(realistic love)とも言えます。ですので、学歴、職業、年齢、家柄などの条件を考慮して恋愛をします。現代でいう条件婚活はプラグマに相当します。

3.関係性概念としてのラブスタイル

 この6つのラブスタイルが社会(西欧社会)においてよくみられる恋愛の種類だとリーは考えましたが、注意しなければならない点があります。それはラブスタイルはあくまで関係性の概念であるとリーが考えていたということです。すなわち、リーは、「恋愛をしている人」の種類を分類したのではなく、「恋愛そのもの」の種類を分類したということです。リーははっきりと以下のように述べています。

それ(ラブスタイル)は関係性の種類(a style of relationship)であり、パーソナリティやアイデンティティについてではない。それはある特定の関係についてのことであり、その人が経験しうるすべての恋愛が必ずしもそうではない。
ある人は時期によって、時には同時期に、ラブスタイルがかなり異なった恋愛を経験するかもしれない。また、時が経つにつれて、ある特定の関係が、あるラブスタイル的特徴をもつ態度や行動から、別のラブスタイル的特徴へ(たとえば、マニアからストーゲイへ)と、変化するかもしれない。(Lee、 1977、 p.174)

Lee, J. A. (1977). A typology of styles of loving. Personality and Social Psychology Bulletin, 3, 173-182.

要するにラブスタイルを提唱したリーは、ある個人が持つ特徴としてラブスタイルを体系化したのではなく、関係性(恋愛そのもの)が持つ特徴としてラブスタイルを体系化しました。

関係性の概念から個人的態度の概念へ


 しかしその後、関係性の概念であったはずのラブスタイルは、恋愛に対する個人的な態度としての概念に変質していきます。すなわち、「恋愛のそのものの種類をラブスタイルと呼びましょう(ちなみに、その種類は色相環のように色々ありますよ)」という発想から、「個人の恋愛に対する考え方・価値観には大きく分けて6つの種類がある、それをラブスタイルと呼びましょう」という発想に変わっていきました。現在では後者の発想、つまり、恋愛に対する態度として「ラブスタイル」を捉えることが心理学の世界では一般的になっています。

 このきっかけを作ったのはアメリカの心理学者ヘンドリック夫妻 ※ です。ヘンドリック夫妻は関係性の概念であったラブスタイルを態度概念と解釈し直し、また、色相環のように多様にあったラブスタイルを上記で説明した基本的な6つに絞って、心理尺度として測定できるようにしました。ちなみに、心理尺度とは、目に見えない「心」を捉えるための方法の一つで、たとえば知能検査や性格検査、就活等で使用される適性検査などは心理尺度です。

Hendrick, C., & Hendrick, S. (1986). A theory and method of love. Journal of Personality and Social Psychology, 50(2), 392–402. https://doi.org/10.1037/0022-3514.50.2.392

「ラブスタイル」の測定方法

「ラブスタイル」に関していえば、質問紙(アンケート調査)を使って以下のように測定します。

【質問紙】
恋人もしくは好きな人に対するあなたの気持ちや行動についてうかがいます。以下の彼(女)のところにその人(恋人もしくは好きな人)を当てはめて、以下の文章にお答えください(選択肢を1つ選ぶ)。

問1. 彼(女)と私は会うとすぐにお互いひかれあった
 ─ まったく当てはまらない
 ─ あまり当てはまらない
 ─ どちらともいえない
 ─ 少し当てはまる
 ─ よく当てはまる

この問1はエロスを測定する質問です。「まったく当てはまらない」を1点、「よく当てはまる」を5点とし、得点が高いほど回答者がエロス的態度(考え方)を有していると捉えます。このように、問いをいくつか繰り返し、それに対する回答を集計することで、エロス◯点、ルダス◯点、ストーゲイ◯点、…というように点数化します。そして、回答者の恋愛に対する態度として6つの「ラブスタイル」の要素がどの程度含まれているのかを捉えていきます。

 心理学ではよくあることですが、ある概念を測定する心理尺度ができると、その概念についての研究が進みます。「ラブスタイル」も同様に、ヘンドリック夫妻によって心理尺度が作成されたことで、態度概念としての「ラブスタイル」の研究が進みました。

日本において普及した「ラブスタイル」

 日本においても同様で、松井ら※が率先的に着手しました。まず松井らはヘンドリック夫妻が作成した心理尺度を邦訳して使えないかと考えました。ですが、日本人相手には回答しにくい質問が多く含まれていたようで、ヘンドリック夫妻の作成した心理尺度を使うことを諦め、松井らは独自に「ラブスタイル」を測定する心理尺度を作成しました。これはLETS-2(Lee’s Love Type Scale 2nd version)と名づけられました。念のため付言しておくと、ここでの「ラブスタイル」はもちろん態度概念(恋愛に対する個人的な態度)として測定されています。

 LETS-2を作成した松井らは、それを使って日本人の「ラブスタイル」が6種類になるのかどうかを調べました。その結果、ヘンドリック夫妻と同じく6種類の「ラブスタイル」が日本でも確認されました。すなわち、日本においても、恋愛に対する態度として、エロス、ルダス、ストーゲイ、マニア、アガペ、プラグマという6種類の「ラブスタイル」があるという結果を得ました。

※松井豊・木賊知美・立澤晴美・大久保宏美・大前晴美・岡村美樹・米田佳美(1990). 青年の恋愛に関する測定尺度の構成 東京都立立川短期大学紀要、23、13-23.

4.「ラブスタイル」における相性

 日本において率先して「ラブスタイル」を研究した松井は、恋愛の色相環理論における重要な点の1つとして、恋愛の相性を予測できることを挙げています。相性とは、簡潔に言えば、恋愛関係における2者それぞれのもつ特徴が合うかどうかです。たとえば、恋をゲームと考えるルダス型の人にとって、奉仕的なアガペ型の相手は面倒に感じるので、相性が良くないと考えられます。

 このような相性という発想は、上記のように、リーが色相環になぞらえて恋愛の分類を考えたことに由来します。リーは、エロスの対極としてプラグマ、ルダスの対極としてアガペ、ストーゲイの対極としてマニアが位置づくと考えました。そこで、この円環構造を根拠に、心理学研究では、エロスとプラグマは相性が悪く、ルダスとアガペは相性が悪く、ストーゲイとマニアは相性が悪いと予測し、それを調べるための研究がいくつか行われました。

 ただし、実は、リー自体は相性が良い・悪いなどとは述べていません。リーが述べたのは「対極にあるラブスタイルは愛についての共通言語を共有しにくい」ということです。「同じ”愛”の感情でも、その表現型が対極」とも述べています(Lee、 1974、 p.50)。すなわち、あくまでラブスタイル同士の関連性として対極にあるラブスタイルは全く正反対の在り方をしていると述べただけであり、恋愛関係にある2者の相性の話はしていないと言えます。

 それにもかかわらず「恋愛関係における2者の相性を予測できる」とされたのは、関係性の概念としてのラブスタイルが個人的態度の概念として変質した結果であると考えられます。

Lee, J. A. (1974). The style of loving. Psychology Today, October, 44-51.

5.ラブスタイルからみた良い恋愛のためのアドバイス

 ラブスタイルは個人的態度として普及していますが、元々は関係性の概念でした。すなわち、ある人の性質として「ラブスタイル」があるのではなく、あくまで恋愛関係の在り方の分類としてラブスタイルがあり、個人のラブスタイル(のように見えるもの)は、相手との関係性によって決まります。ですので、一見すると異なるラブスタイルを歩んできたように見える2人でも、関係性次第によっては互いが自分にとって望ましいラブスタイルを築くことができます。

 ただし、人間には慣れやクセがあるので、どうしてもこれまでと似たような相手を選んでしまい、同じようなラブスタイルになってしまうことが多くなりやすいと思います。ですので、「これまでの恋愛が散々だった」とか「良い恋愛をしたい」と思ったなら、自分のこれまでのラブスタイルとはちょっと違う関係性、あるいは、自分とは違うラブスタイルを築いてきた相手を選んでみるというのも一つの手だと思います。これまで経験してきたものと違うラブスタイルは、初めのうちは違和感があるかもしれませんが、意外と徐々にしっくりくるかもしれません。

恋愛心理学のその後

 恋愛心理学の基礎理論として、今回はラブスタイル について紹介してきました。その後、色々な研究が 進み、様々な理論が出てきています。最新の研究については、また別の機会で紹介できたらと思います。

今回の学び:
1.「恋愛とは何か」ではなく、「恋愛とはどのようなものか」という転換で恋愛の分類学ははじまった
2.ラブスタイル理論では、よく見られる恋愛の種類が 6 つある
3.お互いの関係性次第で、ラブスタイルは変化する

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