新型コロナの影響下で生じた日本・中国・台湾トライアングル関係の変容 日本のインバウンド事業の未来

新型コロナの影響下で生じた中国×台湾間の争い

中国版ツイッターである「Weibo」の主催のコラム「両岸青年説」で、中国の愛国青年が、台湾が新型コロナウィルスを「武漢肺炎」と呼び続けることに対し、猛烈な非難のビデオを公開した。

「新型肺炎」、「武漢肺炎」、「新冠肺炎(新型コロナ肺炎)」いずれも今回の新型コロナウィルス(covid-19)に対する感染症の通俗的名称である。中国ではWHOの合意に添い、特定の地名によるスティグマの発症を避けるよう「武漢」という言葉の使用を控えようと主張した。しかし、台湾はこの要求に応じず、特にメディアやインターネット上では、依然として中国に関わることを強調する「武漢肺炎」と名付けている。

台湾ではさらに、中国からの批判に対する挑発的な発言がインターネットでされるようになってもいる。台湾の世論では、疫病流行の責任を中国の硬直化した官僚政治やイデオロギーに帰結しようとした声もある。今回の新型コロナウィルスの流行は、「一つの中国」というよりも、むしろ中台両側の関係悪化に拍車をかけるようになっている。

白熱化した中台対立を促した新型コロナウィルス~台湾はWHOから直接情報取得が許されていない~

台湾国際貿易局の統計データによると、2018年11月から中国・台湾両岸の貿易総額が従来より激減しているようである(日台間では緩やかな成長が見える)。無論、新型コロナウィルスによる互いの国境の閉鎖も一つの要因であるが、それより、新型コロナウィルスで促された更なる対立の両岸関係と親密化した日台関係の構造変化を無視してはおけない。

「台湾は中国の一部であり、主権国家ではない」とは北京政府の一向に断固の主張である。従って台湾の各国際組織での活躍ないしは加入でさえも、主要メンバーの中国に拒まれている。新型コロナウイルスの影響下においてもこれは例外ではない。中国はこの建前のもと、防疫に重要な役割をもつWHOから防疫情報を直接獲得することが拒否したのである。

このことは、台湾社会で大きな反応をまき起こした。今回の新型コロナウィルスの名称問題もこれが一つの要因かもしれない。ある程度の怨恨が台湾社会にさらに広がったわけである。

台湾で広がる「中国との貿易関係を完全に停止しろ」の声

今年の9月、「両岸経済協力枠組協議」(Economic Cooperation Framework Agreement、略称ECFA)が段階的な収束を迎える。しかし、新型コロナウィルスによる感染について、台湾側はかなり強硬的な態度を中国に示している。政府間の不信はさるものながら、台湾の民衆においても「中国との貿易関係を完全に停止しろ」というような声も続出している。

このような反応があることから、これからの「両岸経済協力枠組協議」の更新や自由貿易協定の締結に対して、筆者は悲観的な態度を持っている。一方、事実として、この枠組み協議はアーリーハーベストの発効している段階で滞っており、その後協力を拡大するために必要だった「海峡両岸物品貿易協定」や「海峡両岸サービス貿易協定」などの目論みも座礁をしたこともある。協議自体が本来に期待された実効にも達成していなかった。これから協定の中止によって、両岸間の経済協力はより深刻な窮地に陥るに違いないと予測できる。

このことは、中国と台湾の関係性の向上を願う者に対しては、悲劇であるかもしれない。しかし、だからといって日本と中台の関係も悲劇的な結果に陥るというわけではない。

新型コロナウイルスの影響下で築かれる日本・中国の関係性

日本社会は中国に対して、国全体としてみれば、台湾と正反対な姿勢を示していた。日本は「新型肺炎」と命名しており、中国側から見ると、より柔らかな物腰をとっているという印象が強い。中国を非難する声も、日本においてはそれほど多くないようである。そればかりか、友好都市関係や個人的な支援を通して、中国との物資の贈呈も多数メディアに上がっている。

馬英九政権の中台友好はもはや過去の歴史になりつつあるし、上記のことから、習近平と蔡英文の左右下の両岸関係は今回のコロナウィルスで更なる挫折を余儀なくされることを理解するにも難しくないだろう。一方で、新型コロナ勃発後の日本の動きは、筆者が見る限り、日中関係に対し、尖閣諸島問題以来の最も良い友好関係を築くのに一役買っていると思える。これからも新型コロナのもたらしたマイナス影響にも妨げられずに、この日中友好の傾向は、続くかもしれない。

さらに日本は、台湾とも友好な関係を築きつつある。

国交のない友人、日本と台湾

台湾は長年の間、国交を絶えたままに、「経済文化交流関係」という大使館級名義を避け、民間交流機構を通して実質的な関係を保っている。「サンフランシスコ講和条約」で日本が台湾の領有権を放棄するまで、台湾は日本の植民地であった。

「植民地のストックホルム症候群」だと中国側が批判した台湾社会が、朝鮮半島に比べれば全体的な「親日感」が溢れているように感じられる。ビザ不要で相手国に入国でき、長時間滞在が可能ということから、ヒトの往来は頻繁である。それにともない、日台の間の観光産業も相当な熱さを保ってきた。2019年5月に行われた「日台観光サミット」では、2020年までに800万人強の交流を実現するようとの「富山宣言」が採択された。

中国・台湾間の「殺し合い」の基調に反して、日本と台湾間では、メディアによって互いに好印象をもっている。今回のコロナウィルスへの「英断」で評判を呼んだ「IQ180」のIT大臣・唐鳳氏と総統の蔡英文氏は先日、日本でも高く評価され、広く好感を与えた。また、4月16日台湾の農業委員会の陳吉仲氏によると、「日本は中国を超えて、台湾農産物の最大の輸出国となっていた」とされる。

長年の間、日本は台湾の「国交のない同盟国」だとされている。去年6月にも台湾総統の蔡英文氏が、日本との自由貿易協定(FTA)を結ぶ意欲を示した。中国との貿易額減少への対応策だと思われる。

蔡英文政権の発足当初に打ち出された「新南向政策」においても、台湾と東南アジアの18ヵ国との貿易額はなかなか伸びず、台湾国際貿易局のデータにも、2019年度以来貿易成長率が減少していると記録されている。それに比べて、日台間の貿易は新型コロナウィルスにも影響されず、増しているようである。

日本は「台湾の保証人、中国の仲間」として、両国との関係を築きつつある

世界中、恐らく日本・中国・台湾より繊細な関係はないのだろう。歴史主義者の目線から見れば、米ソの覇権支配の時代は現在遠ざかっており、グローバリゼーションをメインとする新たな世界秩序が形をなしている。しかも、そこにナショナリズムや戦争などのようなありきたりな問題が依然として存在し、グローバリゼーションを脅かしている。

東アジアも同然である。中台両岸は長年の作戦もない分断国家として国際に認識されているが、実は終戦協議でさえも結ばれておらず、依然として「戦争状態」に当たる。

「隣人同士」として、両国の関係は日本の今後の繁栄にとって重要である。三国間の関係は複雑であるが、ただし、この場合、日本がどちらかの見方になったからといって、どちらかの敵になる、というわけではない。

一般に商売をする際、借金をしたり、賃貸をしたりする際に必要となる堅実な保証人は、成功に欠かせない鍵となるが、その保証人も当然見返りを求める。また、商売において「仲間」は、感情的に支え合いながら、競い合うという役割をもっている。今後の日本は、如何に台湾の大切な「保証人」として振る舞い、中国の賢い「仲間」になるかが重要になるのではないだろうか。

すなわち非政府間の交流や協力を緊密にさせ、排中国的な民間のナショナリズムを軟化させることで、日本は中国・台湾の間に立ち、東アジアの安全や繁栄にも貢献する必要がある。

リアリズムとリベラリズムが国際関係学の二本柱になっているが、いずれとも不条理なところがある。このことで、中国と口論してもどうにもならないだろう。そのため、日中では、非政府間の交流等を通して、「我々は仲間である」と発信するのが大切なのである。前述のような友好都市による物資贈呈も一つの好例であるが、今回の新型コロナウィルスには、非難し合いことをせず、今後さらなるコロナ対策にIT技術の交流や協力が望ましい。

今後の日本経済とインバウンド事業における中台関係の影響

 以上をまとめると、この新型コロナウイルスの影響下で中国・台湾の関係が悪化しているのに対し、日本は、中国とも、そして台湾とも友好を深めつつあると言える。

日本経済に対するこれらの影響は、このウイルス騒動の収束にかかっているのは事実である。しかし、この間の日本の立ち居振る舞いによって、目下のボーナスも期待されるかもしれない。

中国において起こりつつあることであるが、ついこの3月から4月にかけて、新型コロナウィルスでの長時間外出自粛を強いた憤懣による「報復的な消費retaliatory consumption」が起こるはずだと社会心理学者が指摘した。実際に、たった数時間のあいだ開店しただけで、例年の1日分の稼ぎを獲得したという話もある。

このため、今後海外旅行が再び解禁されれば、今回の新型コロナウィルスで中国人に好印象を与えた日本が、恐らく再び中国人客の「爆買いのトレンド」の矛先になるかもしれない。中国人が行きたいのは、もちろん新型コロナウィルスの影響下で怨恨が溜まった台湾でなく、日本である。

日本には、中台間の国際問題について、異なる信条や偏見を超えて、互いに協力を求めるよう対策をとることが期待されるだろう。

陸長栄(リク チョウエイ)
早稲田大学 アジア太平洋研究科 地域協力専攻 博士(学術)

王德璞(オウ トクハク)
早稲田大学 アジア太平洋研究科 国際関係専攻 修士一年生

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です